第一章 きりスペシャル[対美濃編]
(途中図) |
【進化途上の幻の秘法】 初手から、▲7六歩 △3四歩 ▲4八銀 △4四歩(途中図) ▲6八銀 △3ニ銀 ▲5六歩 △4二飛車(第1図) きりスペシャルは対四間・対三間・対向かい飛車戦において、てっとり早く勝つために開発された戦法である。(・・・そんな戦法は本当はないはずだけど) 特に、あの非常に堅くて憎い美濃囲いを攻略するために誕生させた代物だ。 ゆえに対居飛車戦には使えない。別の将棋になる。 本戦法には関係ないが作者が対局する上での基本構想を記しておく。 作者は居飛車党であるが、相手が振り飛車ならこちらも振る(=きりスペシャル)。つまり「居対居」戦、「振り対振り」戦のどちらかにもっていくのだ(つまり、ともに玉頭戦に持っていく)。 ゆえに作者は「居対振り」戦(流行戦形)はまったく指さない。指せば負けるし(^^; とにかく直接、相手玉を直接攻めて短期決戦にしたいのだ。 ちなみにこの戦法は現在も進化の途中だ。今のところ「将棋倶楽部24」で最高「一級」まで通用している。・・・「それじゃあ、ダメじゃん!」とツッコミを入れられてしまいそうだが、まだまだ発展途上(?)ってことでお許しいただきたい。 きりスペシャル(以下、きりSP)は先手後手、関係なく指せるが説明する上でわかりやすくするため先手を持たせることとする。・・・要するに先後の違いを語るほどの緻密な戦法ではないということで(^^; まず後手は角筋を止めて自然な四間飛車だ。対して先手は少々変則的な出足。 (基本的考え方) ここで、きりSPを指す上での基本的な考え方を述べておきたい。 きりSPは将来飛車を7筋(三間)に振る。しかし、きりSPは美濃攻略のための戦法であるから当然、相手を美濃に囲わせたいところ。よってしばらく居飛車を装う(せこいっ)。 しかし、2筋(飛車先)の歩は突かずに駒組みを進めたい。作者が10級時代は▲2六歩と突いて、いかにも居飛車のフリをする作戦をとっていたが将来そこが傷になりやすいし、なにより序盤で手損になるのが痛い。とにかく、きりSPは序盤での手損は少したりとも許されないのだ。 |
(第1図) |
【後手自然な駒組み】 第1図からの指し手、▲5七銀左 △6ニ玉 ▲6六銀 △5二金 ▲6五銀! △7ニ玉(第2図) 飛車先の歩を突かないので不信に思う後手。「飛車を振ってくるかも知れないなぁ」と警戒しつつも、振らない可能性も否定しきれないだろう。 かまわず後手は△8ニ玉で美濃を目指す。ここでは後手穴熊を目指すこともできるだろう。その変化は別編で記すが、きりSP対振り穴はきりSP有利の結論が出ている(笑) また後手、金無双も有力だがそれも別編で紹介する。 |
(第2図) |
【特異な銀立ちの理由】 第2図以下の指し手、▲7五歩 △8二玉 ▲5七銀 △9四歩 ▲9六歩 △7二銀 ▲7八飛車 △4三銀(第3図) 第2図ではすでに定跡を大きく外れている。「こいつヘボだな」と思われてしまうかも知れない。奇襲戦法にありがちな狙いだが相手にヘボと思わせることができれば良しである(^^; 見るからに不安定な銀立ちだがきちんとした意味が一応ある。 ▲6五銀のところでは、▲7五歩を先に突きたいが△4五歩とされるときりSPの理想形に組めなくなる。細かい話になるが後手の角にヒモがついていないときに▲6五銀と立ちこちらの角筋を通しておくほうが、きりSPの成功率が少しだけ高くなる(気がする)。 また、▲6五銀は5筋からの攻め筋の変化も残している。つまり▲6五銀〜▲5五歩から将来▲5二飛を見ることができる変化だ。しかし、それを作者はやったことが無い。相手にそういう変化もあることを見せることができればそれだけで美濃に囲わせる効果がある(かも知れない)。 後手の指し手は定跡的(?)で普通な駒組みだと思う。少なくとも目立った悪手は指していないように見える。そしてここから早々に仕掛けを開始する。 |
(第3図) |
【対美濃砲の完成】 第3図以下の指し手、▲7四歩 △同歩 ▲5五角(第4図) 先手は21手目にしてついに飛車を振る。そして早々にして強力な装置の完成だ。手順の前後はあるだろうが実戦で、第3図のような形にもっていけることはかなりある。後手もなんとなく違和感を感じつつも機械的に平美濃を完成させるのは無理もない。 そう!第3図は、きりSP(超急戦型)の一番の理想形なのだ!ここまで組めれば、かなりラッキー♪非常に嬉しい。ずばりここから仕掛けることになる。 本当は仕掛ける前にまだまだ指しておきたい手はいくらでもある。棋力がそれなりにある方であればもう少し自陣を整備しなければならないと思うのも無理はなかろう。大局観からすると第3図は玉形大差で作戦負けに見えよう。後手は美濃が完成しているのに対して先手はあまりにも居玉すぎる!「居玉は避けよ」「敵玉より自玉を堅く」という格言もあるし。 具体的には▲4八玉と一手入れることができれば銀にヒモがついて自陣は一気に安定する(とは言ってもたかがしれてるが)。しかし、もともと定跡から外れた将棋にそんなことは言っていられない。第3図から仮に後手の手番だとしたら、△5四歩や△5四銀や△4五歩などが入るともう超急戦を仕掛けることができなくなってしまう。長い将棋になってしまうのだ。超急戦の仕掛けがあるからこそ、きりSPが存在していると言っても過言ではない。ここは仕掛ける一手だ。 (守りの一手) 自陣をぜんぜん整備していないくせに9筋の端歩(▲9六歩)を受けたことに不信を感じている方がいるかもしれない。(気づいていただけただけで嬉しいが)。しかし、この手は絶対に入れておかなければならない!きりSP(超急戦型)唯一の守りの手である。ちなみに▲9六歩に替わって▲4八玉でも良い(本説明と違う手順になるが)。その手の意味はどちらも同じ、将来の△9五角で王手される手を未然に防ぐ意味だ。今の時点で説明してもわかりにくいかも知れないが王手の両取りがかかってしまうのだ。両取りがかかった時点で投了するハメになる。 ▲9五歩と▲4八玉との比較だが、▲9五歩は将来端攻めの味がある。それに対して▲4八玉は5七の銀にヒモがついて非常にいいが飛車の横利きがなくなり、2八の地点にキズができることにもなる。どちらも一長一短だが、作者は最近、後者を多用している。 |
(第4図) |
【気持ちのいい手「▲5五角♪」】 第4図からの指し手、△7三桂 ▲7四銀 △6二金寄 ▲3三銀成 △同金 ▲7四歩(第5図) 仕掛けは7筋の歩を突くことから。△7四同歩に、▲同銀の一歩交換ではあまりに無策だ。ここは当然▲5五角で早々に美濃に対して王手。 しかし、先手の仕掛けは飛、角、銀の三枚の攻めだ。四枚の攻めはきれないというが三枚で大丈夫だろうか。しかも自陣は純粋な居玉。カウンターを食らうような展開になればもう終わりである。まさに背水の陣。 単純な王手に意外と受けが難しい後手。考えられる手はいくつかあるが実戦で多いのが、△7三桂、△7三銀、△9二玉の3つだ。ちなみに△7三桂と△7三銀は同じような展開になる。△9二玉の変化は後述する。 △同金のところで△同銀なら同様に▲7四歩または▲7四桂もある。 |
(第5図) |
【7三の地点に打ち込んで終わり】 第5図からの指し手、△6四金 ▲同角 △同歩 ▲7三金 △7一玉 ▲7二金 △同金 ▲7三歩成(結果図) 第5図からはほとんど一本道。 |
(結果図) |
【後手戦意喪失】 玉頭にと金ができてしまっては後手戦意喪失してしまうだろう。 結果図では先手は角桂交換の駒損だが、なんと言ってもと金の存在が大きくここでは玉形も逆転している(先手玉のほうが堅い)。先手勝勢だと言えよう。 では、途中の第4図に戻って△7三桂のところで△9二玉の変化について記す。 |
再掲(第4図) |
【△9二玉の変化】 第4図からの指し手、△9二玉 ▲7四銀 △5四歩 ▲9一角成! △同玉(第6図) ▲5五角に対して作者の実戦で一番多かった受けが△9二玉だ。たしかに角筋を早々に避けておく感覚は正しいだろう。 ▲7四銀に△5四歩がこれまた実戦ですごく多い。これは角にお引取り願おうとする着手だがこれは疑問手だ。火に油を注ぐことになる。 ▲9一角成が強手だ。ここで角を引いてしまうようでは、まったく攻めにならないし作戦負け模様になってしまう。 通常こんな早い時期に角香交換はまずい。しかし本譜の場合は成立する。「守り駒と攻め駒の交換は攻め方有利」「玉を下段に落とす」といった2つの効果があるからだ。しかもここではすでに中盤を通り越して終盤に入ろうとしている。駒得より速度だ。 しかもこの攻めには強力な狙いがある。次の一手で決まる。 ちなみに△5四歩のところで△7三歩も実戦でよくある応手だ。以下▲同銀成 △同桂 ▲同角成 △同銀 ▲同飛成となる。こうなると後手歩切れが痛く、あとは先手が7筋に歩を垂らしてと金作りなどを目指して良しである。歩が無い後手は7筋が防戦困難になるのだ。 |
(第6図) |
【悲しきかな銀バサミ】 第6図からの指し手、▲7三歩 △同桂 ▲同銀成(結果図) ▲7三歩で後手の銀が逃げられない。準銀ばさみだ。後手△7三同桂と取ってくるだろうが▲同銀成と駒得して先手が十分である。 |
(結果図) |
【玉形逆転、駒の働きに差】 結果図では先手と後手の玉形が逆転している。なんと言っても先手玉は広く、後手玉は狭い。また駒の働きの差が大きい。後手の左辺の駒の働きが悪く、特に5二の金が飛車の横利きを消しているのが致命的だった。結果論だが後手美濃囲いに費やした手がすべて悪手だったとも言える。・・・それは違うでしょ(^^; ちなみに結果図で▲9六歩が入ってなかったら先手負けである。上欄の(守りの一手)にも記したが△9五角で王手されてしまうからだ。 結果図以降は、攻めを急ぎ過ぎずに指すことができれば先手負けないだろう。後手からは早い攻めが無くせいぜい△4五歩と角道を通すぐらいだが▲6六銀と防げばなんでもない。先手からの攻め筋としては、端攻め、8五桂打、7七香打や8九の桂の活用も考えられる。 以上で、きりSP[対美濃編]を終える。あまりにもうまく行き過ぎだよ!との声も聞こえてきそうだが作者の経験からしてこの展開は十分ありえるし、実際に何度もこれで勝たせて頂いた。 そもそも作者は定跡から外れた戦法は必ずどこかに欠陥があり長く使えるものではないと思い込んでいた。本戦法も当時、遊びで考えただけでこんなに長く指し続けることになるとはぜんぜん思っていなかった(ゆうに一年以上も)。きりSPに改良を加えていくのが楽しく、そのたびに昇級してこれたのが長く指し続けてこれた要因だと思う。 なぜ定跡から大きく外れたこんなヘンテコな戦法でもそれなりに勝てるのか?・・・当然、相手(自分も)が弱いからだが、作者が思うにこの戦法は将棋本に載っていないので(当然だが)、対局相手は非常にとまどう。特に相振り戦を嫌うひとにはかなり効果的な戦法だと思う。 ここで紹介した内容は「きりSP」のほんの一変化に過ぎない。勿論、振り飛車に対してすべて本譜のように居玉での超急戦を仕掛けていけるわけではない(それができれば素晴らしいが)。しかし大丈夫。持久戦にも耐えられるようになっている。さらに改良に改良を重ねて現在も進化し続けている。しかも最近わかったことだが市販本に載っている戦法に変化させることもできると思っている。・・・どれもマイナーな戦法だが。機会があればそれらへの変化も紹介したいと思う。 (最後に一言) 最後まで読んでいただきありがとうございました。本戦法、一度試していただけると嬉しいものです。ここで紹介した攻め筋が実戦で一度でも綺麗に決まればあなたも「きりSP」にハマルかも知れません(^^) では、ごきげんよ〜♪また会う日まで〜♪ |