第三章 きりスペシャル[対金無双編]
(途中図) |
【超急戦三兄弟ついに出揃う!】 初手から、▲7六歩 △3四歩 ▲4八銀 △4四歩 ▲6八銀 △3ニ銀 ▲5六歩 △4二飛車 ▲5七銀左 △6二玉 ▲6六銀 △5二銀左 ▲6五銀 (途中図) △7二玉 (第1図) きりスペシャルには、「超急戦三本柱」がある。そのうち二本は、第一章と第二章で紹介済み。これから紹介するのが他ならぬ三本目である。相振り飛車戦では、定番のひとつ「金無双」の登場だ。 途中図では、先手(きりSP側)、お馴染み(?)の珍妙な駒組みで進行中。ご存知のとおり「ヘタクソなやつだと思わせる」作戦だ!・・・思わせるというか、実際にヘタだと言う説もある(^^; |
(第1図) |
【端歩突きのグッドなタイミングは?】 第1図からの指し手、▲9六歩 △9四歩 ▲7五歩 △8二銀 (第2図) 後手、△7二銀とせず、△7二玉。これは、まだ「美濃」にも「金無双」にもどちらにも囲うことができる形を決めない柔軟な手だ。 こういうときは、先手、早い目に9筋の端歩を突いておきたい。この段階なら、▲9六歩には△9四歩と、自然に応じてくれる可能性が高い。端歩を受けてくれると争点が近づくので、急戦志向のきりSP側にとって、手数を得する意味がある。 副題のとおり本譜は金無双に組まれていくのでタイミングが遅すぎると端歩を受けてくれないことも想定される。 いづれにせよ、きりSP側にとって(9筋の)端歩を突いていて損することは少ないので早い時期に突いておいて問題ない。しかし、例え端歩を受けてくれずとも仕掛けは成立するので心配無用だ。 ちなみに、△7二銀型ならあせる必要はなく、いつでも端歩を受けてくれる可能性が高いと思う。 |
(第2図) |
【後手、的確な防御体制へ】 第2図以下の指し手、▲5七銀 △6二金直 ▲6六角 △4三銀 ▲7四歩 △同歩 ▲同銀 △7三歩 ▲8五銀 (第3図) 後手、▲7五歩を見て、「こいつぁ、飛車を振ってくるつもりだな」と感付かれてしまうかも知れない。大局観を持っている者ならば当然に予測されてしまっても不思議ではない。 争点が玉頭付近になりそうだと察すれば「金無双」に組むのは自然であろう。 こうなっては[対美濃編]で紹介した▲5五角の攻めは無理! 7筋からの突破は不可能だと思う。 これで攻めが頓挫してしまうようでは、きりSPは中級止まりの陳腐な戦法であることを認めなければならないところ。 しかし、別の強力な攻め筋が控えているので大丈夫。 先手、6筋の銀を7筋の歩を交換しながら8筋に繰り替える。[対穴熊編]でも紹介した、きりSP常用の手筋である。ここで一歩手持ちにしながら7筋にいつでも歩を使えるようにしておくことが、後々大きな意味を持ってくる。 (矢倉には組みにくい) 余談になるが、相振り飛車戦において「右矢倉」も有力な囲いである。しかし、きりSPに対して、矢倉に組むのは容易でなく(あるいは無理?)、また有力でもない。作者の実戦経験上でも、矢倉(もどき)相手には勝率もわりと高い。ポイントだけ記すと、囲いに手数がかかるわりにあまり堅くならず、無理組みすると銀交換になってしまいやすい。攻めの銀と守りの銀の交換は攻め方、満足な展開である。(機会があれば別編で紹介したいと思います。) |
(第3図) |
【後手、純正金無双を完成】 第3図以下の指し手、△3五歩 ▲9七香 △3二飛 ▲9八飛 △3六歩 ▲同歩 △同飛 (第4図) 第3図で後手、金無双を完成させている。 それに対して先手、居玉のまんまだ。しかも両脇の金までそのまんま。「いったい何をやっているんだぁ〜」と相手に思われているに違いないし、自分自信もそう思いながら指している(T_T) こんなに駒組が遅れていていいのだろうか?玉形の差は歴然!不安を感じずにはいられないところだ。 しかし、「慣れ」は怖いもの。作者はこんな将棋ばかり指していたので何も感じなくなっている(^^; 第3図はいかにも素人臭い図である。 しかし、第4図まで進んでしまえば、一安心。すでに作戦勝ちを超えて、先手優勢だと作者は判断している(あやしいなぁ)。後手には、早い攻めが無くなっている。 もし、第3図から△5四銀なら手順に▲7七桂と跳ねれば良い。 (実戦では更にヌルいことも) ここまでで後手には、いろいろな手待ち的な手があり、作者の実戦でも、例えば△3三角や△1四歩や△1二香(?)などがあるし、手数を掛けた石田流本組形(飛車浮き、桂跳ね、端角)に組まれたり、2筋の歩を伸ばしてくることもしばしばあった。当然、そういう手があればあるほど、相対的にこちらの手が伸びるので、きりSPの成功率は高くなる。 しかし、逆に実戦では本譜より厳しく指されることもあるのは言うまでもない(^^; |
(第4図) |
【居玉のままで仕掛けてみよう♪】 第4図からの指し手、▲9五歩 △同歩 ▲9三歩 (第5図) 後手は3筋の歩交換を果たす。部分的には飛車先を通しつつ一歩入手する好便な手だ。 先手は端攻めの準備が完了。ここで、とりあえず居玉を避けて▲4八玉や▲5八玉などと玉形整備に掛ける手もあるかも知れない。しかし、ここでは早々に仕掛けるほうがむしろ無難である。攻撃は最大の防御であるとも言いますし(^^) まず▲9五歩△同歩から▲9三歩と焦点に打つ。後手、この歩は手抜きできない。なぜなら、次に香車を走る手が強力なのだ。 (構想に疑問?) ここまでで「え〜?壁銀側を攻めるのぉ?」と、構想に疑問を感じられた方もいるかも知れない。そう思われた方は筋が良いかと(^^; たしかに壁銀に働きかけるなんて筋が悪いように思う。「穴熊玉」に対しての端攻めは強力だが「金無双玉」は7筋に居る。駒損してまで攻めるなんて採算が取れるのだろうかと、思われるかも知れない。しかし、そんなことを気にしてはいけない。なぜなら、もともとヘンな将棋なんだから、問題ないのであるm(_ _)m |
(第5図) |
【端を集中攻撃】 第5図からの指し手、△同銀 ▲9五香 △9二歩 ▲9三香成 △同歩 ▲9四歩 △同歩 ▲同銀 △9三歩 ▲同銀成 △同香 ▲同角成 △同桂 ▲同飛成 △8二銀 (第6図) 第5図からは、ただひたすら端を攻める。多少の変化はあるが、持ち歩があるので簡単である♪ 気を付けておきたい点は、とにかく8五の銀を使ってしまうこと。 経緯はどうあれ結果的に9筋に龍が作れるはず。後手、王手されてはマズイので△8二銀と補強しつつ龍に当てて先手を取る。 |
(第6図) |
【悪手「△9一香」!】 第6図からの指し手、▲9二龍 △9一香 (第7図) 第6図で、龍をどこへ逃げるか? ここでの形勢判断をしてみると、先手は駒損しており、しかも玉をまったく囲っていない。局面が落ち着いてしまうと龍を作っているといえども先手良しとは言えない。 敵陣にとどまるなら▲9二龍しかないが、次に△9一香で取られてしまいそう・・・ |
(第7図) |
【一間龍なので大丈夫♪】 第7図からの指し手、▲8四桂 △7一玉 ▲7二歩 (第8図) 後手、案の定△9一香で龍殺しに来た。 しかし、結論から言うと、これは読みの入っていない悪手である。 ところが、作者の実戦では非常に多かった応手である。美味しい味が思い出される。 しかし、△9一香(悪手)に替わる手があるのかというと、結構難しい。手抜きはできず、△9一歩でも受けになっておらず、本譜と同じ要領で先手が良くなる。 △8一角なら龍を引いておいて良い。こんなところに角を打つようでは後手つらい。 第7図で、まず浮かぶ候補手は、▲8一銀と▲8四桂であろう。作者は、ずーと▲8四桂しか成立しないと勝手に思い込んでいたが、たった今、本稿を作成するにあたり▲8一銀でも良いことに気づいた(^^; 理由は後記。 |
(第8図) |
【後手、受けきれない模様】 第8図からの指し手、▲同金 △同桂成 ▲同玉 △8一銀 ▲6一玉 △8二龍 (結果図) ▲8四桂に△同歩は▲8三銀で簡単。ゆえに本譜のように進行するが、結局のところ後手支えきれない。途中、7筋に歩を打てるのが大きい。 参考に、▲8四桂のところで▲8一銀とすると、以下のようになる。第7図から▲8一銀 △7一玉 ▲7二歩 △同金 ▲同銀成 △同玉 ▲8四桂以下略。つまり本譜と同じような展開になる。 |
(結果図) |
【金無双壁銀側から崩壊】 結果図となっては、後手つぶれ形である。次に▲7一龍(詰み)や▲3八香(飛車取り)などがあっては収拾がつかない。 (後手、敗因の考察) 振り返って考えてみると、後手はただ普通に金無双に囲い、飛車先の歩を交換しただけであるのに、いつしか敗勢に陥っている。 特に目立った悪手(無駄手)も無く、自然に指し手を進めていただけのようにも感じられるのに。 一体、後手は何がまずかったのだろう。ひとことで言うと、後手は「相手を見ていなかった」のが大きな敗因だ。序盤ですでに玉形に大きな差が生じているので早々に後手から仕掛けていきたいところであった。 以上で、きりSP[対金無双編]を終える。あまりにもうまく行き過ぎだよ!との声もまたまた聞こえてきそうだが作者の経験からしてこの展開は十分ありえるし、実戦でも本譜と同じ筋で何度も勝たせて頂いた。 当時、美濃や穴熊に組まれる分には不満がなかった作者にとって、金無双は非常にやっかいな相手であった。5五角の筋が通用しない金無双に組まれてしまうと、それだけで「もうダメだぁ、がっくり、しょぼん」状態に陥り、士気が萎えた時期もあった。しかし、本紹介の筋を発見したときは非常に感動し、絶望の淵から光明を見る思いをしたものだ。なんといってもこれで、「美濃」「穴熊」「金無双」「矢倉」のいわゆる、名のある囲いのほぼすべてに超急戦の攻め筋を準備できたのだから。 しかし、自分では「完璧な戦法だ!」と喜んでいられるのは、そう長くはなかった。対局を重ねるごとに改良を加えるが、やがて致命的な課題にぶつかる。第一章から第三章までで紹介したものはおわかりのとおり、すべて後手から何もしてこなかった。しかし、実戦では相手に「要所の一手」を指されてしまったがために、超急戦を仕掛けられない形になってしまうことも往々にしてある。また、後手(振り飛車側)から早々に仕掛けてくることもある。しかも、それは、きりSPの急戦を封じる狙いの仕掛けだったりする。それでもなお、可能な限り(無理攻めではないぎりぎりの)急戦を模索し仕掛けていくのが、きりSPである。機会とエネルギーがあればそれらについても紹介したい。 (最後に一言) 最後まで読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m 本戦法も、一度試していただけると嬉しいものです。相手が級位者ならば数局に一局は本譜のように綺麗に決まると思います。・・・たぶん(^^; |