第四章 きりスペシャル[角交換編]
(途中図) |
【定跡ってなんなんだろう?】 初手から、▲7六歩 △3四歩 ▲4八銀 △4四歩 ▲6八銀 △3ニ銀 ▲5六歩 △4二飛車 ▲5七銀左 △6二玉 ▲6六銀(途中図) △4五歩 ▲5七銀上(第1図) 「定跡」とはなんだろうか? それはプロ棋士達が長年積み重ねてきた研究結果を体系化したものであり、最善手の集積であるといえるかも知れない。 お手軽な趣味として将棋をする者にとって、「定跡」は絶対だといってしまってもいい程のものであろう。 定跡どおりに指していればアマチュアにとって(プロにとっても)まず間違いないであろうし、また上達を目指す者にとってそれらを利用しないなんて、効率的ではないと誰しもが思うところ。 なかには「我流や奇襲はダメ!所詮その場凌ぎの将棋では上達しない!」あるいは「定跡どおり指さない奴は認めない!」という方もいるかも知れない。 文字通りプロ棋士達が「定めた跡」なのだから、そのレールを辿っていけば良いものと、当然に考えられる。 それは正論であり、否定すべきものではない。なぜなら、単なるアマチュアが定跡(=プロ棋士達による研究の集積体)を覆す新手を発見できるとは到底考えられないのだから・・・うーむ、ダラダラ書いてしまってますが何を言いたいのやら(^^; 先手の指し手は、早々に定跡を無視している。そのバチが当たってか、途中図では先手、早くも玉の囲いに苦労しそうな局面だ(T_T) それを見て後手、普通に駒組みするのは、面白くないと考えるか、あるいは危険と判断するかも知れない。 |
(第1図) |
【新たな攻め筋の誕生】 第1図からの指し手、△7二玉 ▲9六歩 △9四歩 ▲8六歩 △5二金左 ▲7五銀(第2図) 後手、積極的な△4五歩。これは、角道を開放しながら飛車の働きもよくする四間飛車特有の一石二鳥な快感手だ。 ここで飛車先の歩をあっさり交換させてはいけない。 先手▲5七銀と受けておく。 振り飛車側から角筋を通されてしまったので、第一章から第三章までで紹介したような7筋あるいは9筋からの攻め筋は封じられてしまった。しかし、これで急戦ができないようでは、きりSP側つまらない。 しかし、心配無用。 振り飛車側は角交換を辞さない(あるいは望む)構えである。きりSP側からも角道を開けてやれば角交換される(あるいは角交換できる)ことが高確率で予想される。ゆえに、角が手持ちになることを想定した仕掛けを作っていけば良いのだ。 つまり振り飛車側から角筋を通してくれたことにより、きりSP側に新しい攻め筋が発生しているのだ!! ▲8六歩はその第一歩。 |
(第2図) |
【▲7五銀から8筋を狙え!】 第2図以下の指し手、△8八角成 ▲同飛 △4三銀 ▲8五歩 △8二銀(第3図) 従来は銀を6五に上がっていたが、本譜のように角交換が見えている場合は7五に上がるのが呼吸である。相手の指し手(構想)に柔軟に対応し、銀の進路を変更してやるのが好着想となる。 △8八角成で後手からの角交換に、先手は手順に飛車を好位置に転回できた格好だ。 仮に後手から角交換して来ない場合は、先手から交換し飛車を8筋に振れば良い。 そう!角交換には8筋からの攻撃が有力である。 |
(第3図) |
【居玉を避けて安全運転】 第3図以下の指し手、▲3八金 △6二金直 ▲4八玉 △4四銀(第4図) 後手、8筋からの攻めに備えて△8二銀とし、第3図となる。 ここで先手は、足を止めずに一気に仕掛けていくこともできるが、後手からの早い攻めがないのを見定めて、玉の整備に取りかかるのが落ち着いた大局観。 |
(第4図) |
【お好きなほうをどうぞ】 第4図以下の指し手、▲6五角 △3三桂 ▲8四歩 △同歩 ▲同銀(第5図) 第4図で、先手陣は2手費やして角の打ち込みの隙をなくしつつ、5七の銀にヒモをつけてそこそこ安定した玉形を作ることができた。 しかし、いつまでもゆっくりしていられない。後手から次に△3五銀からの4筋攻めが迫りつつある 第4図からは、「▲6五角」と「▲8四歩」の2通りの攻め筋を紹介する。本譜ではどちらの筋でも成立しそうだが、実戦では局面に応じて使い分ければ良いだろう。 まず▲6五角の攻めから。これは2一の桂馬を照準に▲2一角成を狙っている。 桂馬を奪いつつ馬を作れれば先手優勢。飛車をいじめる手も生じることから4四の銀をボケさせることもできそうだ。 よって、後手は当然受けてくる。考えられる手として、手順に桂馬を跳ねてしまう△3三桂と、角を合わせる△5四角がある。△5四角には▲同角、△同歩となり、次に▲8四歩から後述する仕掛けに準じることになる。 |
(第5図) |
【敵陣内に美味しい拠点♪】 第5図以下の指し手、△7四角 ▲同角 △同歩 ▲8三歩 △7一銀 ▲8二角(第6図) △3三桂に▲2一角成からじっくり行く手も考えられる。しかし、無理攻めでないのなら、相手玉を一直線に攻めるほうを選びたい。▲8四歩から攻撃開始! 第5図の局面となっては後手、受けが難しい。△8三歩は受けになっていないし、△9二角も▲同角となりダメなようだ。 よって本譜のように進行するが▲8三歩打で、すごいところに拠点を作ることができた。続いて▲8二角と打ち込んで攻め続ける。 |
(第6図) |
【攻防手▲8二角打】 第6図以下の指し手、△8二同銀 ▲同歩成(第7図) 第6図の▲8二角打は攻防手。▲9一角成を狙いつつ、遠く4六の地点を守っている。後手としては、こんな角を放置していては何もできなくなる。△8二同銀で角を消す。 |
(第7図) |
【金をはがしにいくのが寄せの基本】 第7図以下の指し手、△6一玉 ▲8三銀成 △3五銀 ▲7二と △同金 ▲同銀成 △同玉 ▲6一銀(第8図) 第7図では、実戦心理から早逃げの△6一玉が候補手に上がるだろう。 先手は飛車先が重いようだが、本譜のように▲8三銀成〜▲7二とから、6二の金に働きかけて調子がいい。 角しか持っていない後手はなすすべがない状態だ。 |
(第8図) |
【後手、駒得のようだが・・・】 第8図以下の指し手、△同玉 ▲8一飛成 △7一銀 ▲7二金(結果図) 本譜は寄せの一例。いくつか変化はあるがこれは先手の勝ちっぽい。 |
(結果図) |
【後手玉、詰まされてしまふ】 銀を捨てたりで、気持ち良く寄せることができた。でも、これはちょっと出来過ぎな感じ。 第7図に戻って変化手順を見てみよう。 |
(再掲第7図) |
【少し怖いが「と金」を消しにいく】 再掲第7図以下の指し手、△同玉 ▲8三銀成 △7一玉 ▲8二成銀 △6一玉 ▲9一成銀(結果図) 第7図で、と金を働かせては勝ち目がないと判断し、後手は△同玉で、と金を消す。しかし、本譜のように進むと・・・ |
(結果図) |
【後手、やはり苦戦へ】 結局のところ、結果図のようになってしまうと後手つぶれ形。 飛車の成り込みが確定的で、しかも自陣に隙が無い先手が優勢だと思う。 |
(再掲第4図) |
【もうひとつの攻め筋紹介】 再掲第4図以下の指し手、▲8四歩 △同歩 ▲同銀 △8三歩(第9図) 第4図に戻って▲6五角に替えて、▲8四歩からの仕掛けを見てみよう。 作者はこちらのほうが本筋のように感じている。 先手▲8四歩から普通に仕掛けていく。 |
(第9図) |
【成立するのか?銀の丸損】 第9図以下の指し手、▲同銀成 △同銀 ▲8四歩 △9二銀 ▲8三角(第10図) 第9図で攻めを続けるには銀を引いては攻めにならない。 ここは、当然狙いの一手、 強手▲8三同銀成! 銀損するので非常に指しにくい順だが、案外に手になっているようだ。角を手持ちにしているから成立する攻めであり、早くも▲8三角打で王手をかける! 途中、▲8四歩の手に対して△同銀はある。これは次に当然▲同飛となる。この銀交換は純粋に先手が少し得であろう。後手玉を薄くする利があるからで(8筋が非常に薄くなっている)、先手主張が通った形で不満がない。また、後手がただちに△8二銀打などと囲いに投入するようなら、先手のみ銀を手持ちにして指し易い。 また、△9二銀に替わり、△7四銀もある。 しかし、これは本譜と同じような展開になる。とにかく、8筋に「と金」を作る感覚を持っていればよい。 |
(第10図) |
【先手、と金を作って一安心】 第10図以下の指し手、△同銀 ▲同歩成 △6一玉(第11図) 第10図で、玉が逃げにくい。どちらへ行っても逃げた感じがしないのだ。 ここは一旦、△8三同銀としてから△6一玉へ逃げるのが安全そうだ。 先手は銀を捨てての攻めだったが、と金を作れたのでとりあえず仕掛けが成立した格好だ。しかし、駒損が非常に大きく油断はできない。 |
(第11図) |
【終盤はみんなご存知、速度重視で!】 第11図以下の指し手、▲9二と △同香 ▲8一飛成 △7一銀 ▲8三桂(結果図) 第11図から▲8二とでは、やや重くて、やや遅い。 ▲9二とのほうがスピード面で勝る。 ここで、と金を失うことを惜しんでいてはいけない。 飛車先を軽くし、スピ〜ディ〜に攻め続けたいところ。 しかも本譜の場合、8筋ならばいつだって、と金を作ることができるのだ。 |
(結果図) |
【へなちょこ戦法「きりSP」!?】 結果図となっては、先手のみ敵陣突破を果たしており、かなり受けにくい状態。 しかも頭をひねることなく駒損も解消できそうな局面だ。 具体的には、9二の香を拾う手や、と金を作るなどゆっくり指しても十分そう。 先手陣に当面、怖いところもないのでこれは先手勝勢だろう。 これにて[角交換編]を終える。 本章前段で「定跡」について書いているが、その「落ち」をなんらかの形でつけなければならないと思う。 定跡は絶対的(絶対ではない)に信頼できるものであるが長い目で見ると厳密には常に進化しており、つまりは「変化」している。 「先手よし」とされた局面が新手の発見により「後手有望」と、形勢判断が変わることもときにはあるだろう。 ゆえに既存の定跡をよく理解もせずに盲信することは、ある意味危険であるともいえる(かなぁ。・・・なんだか大げさ)。 また、筋が悪いとされる指し方や格言に反する指し方が、有力な戦法として認められ流行することもあるのだ。例えば、横歩取り後手番の「△8五飛戦法」や居玉で仕掛ける「藤井システム」など。 きりスペシャルは、へなちょこな戦法なのかも知れないが、しかしこんな戦法でも知っていて損はないと思う。 なぜなら、もしかすると数十年後には、「きりスペシャル」が定跡のひとつになっているかも知れないのだから!!・・・うーん、有り得ないし無茶苦茶なまとめ方だなぁ。まぁ、これが「落ち」ってことで。ちゃんちゃん(^^;(陳謝) (最後に一言) 最後まで読んでいただきありがとうございました。ここまで、第1章から第4章にかけて「いろいろな囲い」に対する玉頭からの急戦の攻め筋を紹介させてもらいました。 お察しの方もいると思いますが、実はこれらの攻め筋はすべて「美濃囲い」に適用できる攻めにもなっています。 つまり、美濃囲いに対しては玉頭からならば、どんな急戦でもそこそこ通用すると思っています。作者は「きりスペシャル」を優に1000局以上指していますがその経験からそう感じているところです。 玉頭からの攻めには「矢倉」(「銀冠」も)が非常に耐久力があり、普通の相振り飛車戦では最有力な囲いのひとつでしょう。 しかし、きりSPに対しては、それらに囲うことが難しく、例えそれらしく囲えても本譜と同様、8筋(2筋)から棒銀感覚で攻められるとわりと簡単に崩れてしまうことが多いです。また囲いに手数もかけているので攻め形が整っておらず反撃の味もなくつまらない面もあります。 では、きりSPに対してどのような囲いが良いのでしょうか。 正直なところ作者の棋力ではわかりません。 もしかすると振り飛車側がきりSPからの急戦を正確に封じつつ美濃に囲って十分(作戦勝ち)なのかも知れませんが、はっきりしないところです。 しかし、作者の実戦経験上でいわせてもらいますと、もっとも苦戦する相手はやはり「金無双」です。特に壁銀にしない「7一銀型」(「3九銀型」)の金無双が殊の他脅威となり勝率が悪いです。ここで文章でいろいろ書いてもわかりにくいものになりそうです。 それらについても作者の余力があれば紹介したいと思います。 では、さようなら〜♪また会う日まで〜♪ |